比較的若い女性が卵巣を摘出した場合、エストロゲン療法を受けないと死亡リスクが増大することが米メイヨークリニックの研究グループにより明らかにされ、英医学誌「Lancet Oncology」10月1日号に掲載された。癌(がん)などのリスクが高いとされる女性は予防的に卵巣摘出術を受けることが多いが、45歳未満の女性ではエストロゲンが単に生殖だけでなく、健康維持のために極めて重要であることが示され、術後ホルモン補充療法(HRT)を受けるかどうかの決断が難しくなりそうだ。
今回の研究では、エストロゲンレベル(濃度)と関係があるとされる卵巣癌、乳癌、冠動脈性心疾患、股関節骨折、脳卒中による死亡率の統計モデルを構築し、集団ベースで、閉経前に癌以外の理由で卵巣を片側のみ摘出した女性約1,200人、両側とも摘出した女性約1,100人と、年齢を適合させた対照群約2,400人とを比較した。
その結果、全体では死亡率に差はみられなかったが、年齢別にみると、45歳未満では、両側の卵巣を摘出した女性はどちらも摘出していない女性に比べ、いずれの疾患でも死亡率が有意に高いことがわかった。さらに、この死亡率の増大は主に45歳までにエストロゲン補充療法を受けていない女性にみられた。片側のみ摘出した女性では、年齢にかかわらず死亡率の増大は認められなかったという。
米国では、年間30万人の女性が予防的に卵巣摘出術を受け、毎年約1,000例の卵巣癌が予防されているが、25年を費やしたこの研究により、予防効果を相殺する有害作用が示されたことになる。これまでは、60歳以上の女性を対象とした「女性の健康イニシアチブ(WHI)」研究の結果が若年層にも適用され、5年を超えるエストロゲン療法は避けるよう勧められていたが、今回の研究で50歳未満の女性のリスクと効果が高齢女性とは異なることが明らかになり、この勧告が誤りである可能性も出てきた。
しかし、この研究では因果関係を示す根拠がない点を指摘する専門家もいる。閉経期まで卵巣を残すべきかという議論についても、今回の研究から結論を下すことはできず、その判断は個々の医師と患者に委ねられるという。女性1人あたりのリスク増大はわずかなものであるため、必要以上に不安になることはないが、卵巣を摘出している女性は、閉経の平均年齢である50歳まではエストロゲン補充療法を受けることを専門家は勧めている。
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